後藤さんは2002年1月、運転していた車がガードレールに激突し左足を骨折。16時間以上の手術にもかかわらずに患部の壊死が止まらず左大腿部を切断、片足生活に。その3年前には、1人が亡くなる交通事故を起こしており、「なんで俺は生きているのだろう」と、自問自答する日々が続いたという。そんな中、いろんな人との出会いから、生かされている自分に気が付いた。2008年夏、障害のある妹を持つ加藤さんと絵本を作ることで意見が一致した。「これまでに文章を書いたことがなかったが、通勤の途中にひらめいた文を会社でさっそくパソコンに打ち込み、手直しして完成させた」と後藤さん。加藤さんも初の挑戦で絵をパソコンで描いた。当初は印刷もパソコンのプリンターを使っていたが、プリンターだと水に濡れるとにじむので、今は業者に任せている。製本はボランティア仲間たちが協力している。「大人から子供まで広く読んで欲しかったので絵本にした。やっていることは明治維新のころと同じ。手作りし、口コミと手渡しで販売してきたが、多くの人に読んでいただいている。乳がんを患ったオーストラリア在住の日本人の方からメールが届き、オーストラリアでも絵本を広めたいので英訳を付けたら、との助言もいただき、英訳も付けた。目標は1万部」と柔和ながら意欲的な後藤さん。
絵本を読んだ人から講演依頼が次々と来ており、これまでに県内だけでなく、愛知県や三重県、石川県などに出かけている。小学生が相手だと、絵本の読み聞かせをしながら、体験談を語ったり、1本足をどう思うかなどの、質疑応答をしているという。佐賀県や宮崎県、茨城県など遠くに出かけたこともある。絵本を読んだり、講演を聞いた人からは「世界にはいろいろな障がいを持った人と持たない人も、みんないっしょで、みんな仲間なんだということが分かりました。みんな助け合っていきていくことは大切だと感じました」(小学4年生)や「いつも感謝の気持ちで生き、自分が受けた愛情を今度は周りに還元できるように、心に愛と思いやりを持ち、生きていたい。とても心に響く素晴らしい時間をありがとうございました」(専門学校1年生)などの感想文が寄せられている。
後藤さんは「片足になったが、交友範囲も広がり、それ以上に満足した人生を送らせてもらっている。絵本を読んだ人が元気になってくれたらうれしい。第2作についてもアイデアはある。みんなと相談しながら進めていきたい」。
2014.04.01(子林 光和)