先日、NHKスペシャル人体(3)という番組を偶然見ました。何故人は老いるのか、受精の時から細胞分裂が始まり、細胞分裂が進んでいくことで人は必然的に老いていくのだそうです。今、老化治療薬の研究が進められているそうですが、老いても輝いている人として指揮者の小林研一郎氏が紹介されていました。
小林氏は炎のマエストロと呼ばれている方で現在八十五歳です。その彼に、昨年末、ベートーベンの交響曲の指揮の依頼が来たそうです。それも一曲や二曲ではなく、演奏時間は十二時間という、とてつもなく長時間の依頼でした。迷った末に引き受けられたそうですが、息子さんは「生きて帰って来いよ。」と送り出されたとのことでした。
日常生活のご様子は、歩き方や体の動かし方など、年齢相応に見受けられますから、息子さんがご心配なさるのも当然だったでしょう。楽団員の方は入れ替わりがあっても、指揮は、お一人で立ったまま十二時間ですから・・・。
しかし、指揮台に立たれた瞬間、表情がサッと変わりました。そして とても八十五歳とは思えない体の動きと、タクトの振りに圧倒されました。曲と曲の合い間にはリハビリの方の手を借りながらの十二時間、第九の合唱が終わり、タクトの動きが止まった時、私は思わずテレビに向かって拍手をしていました。
テレビの解説には山中伸弥教授も登場し、老化には、人の体内にあるミトコンドリアが関係していると説明されていましたが、それと同時にその人自身の使命感というのか生き甲斐というのか、自身の中に存在する熱い思いが人を輝かしめるのだということを小林氏の映像から知らされました。
結局人はどう生きるのか。年齢を重ねても自分の中の消えることのない熱い思いを持ちつづけていくことしかないのだなあと思い知らされた番組でもありました。
庭先に夏みかんの花が咲きはじめています。八朔とちがい猿や白鼻心が手をつけないまま枝には、まだ実が残っています。でも季は否応無しに過ぎていきます。
2025.5.19 発行